パケ大使、日本での「模擬EU」立ち上げについて、「自分たちで社会を変えられるとの信念を、若者のなかに育むことができる」プロジェクトだと指摘
日本における大使の役割について教えて下さい。
私は2022年9月に着任しました。EU大使の役割は、EU全体を代表するという点を除けば、各EU加盟国の大使の役割あまり変わりはありません。
EUは政治的なプロジェクトです。27の加盟国から構成されていますが、気候変動、エネルギー、安全保障、社会のデジタル変革などの分野においては明確な政策をEU全体で共有し、各加盟国でも展開されています。また、これらの政策は域外国との政策対話をも構成し、駐日EU代表部の場合、その対話相手は日本です。
私の役割は、欧州と日本が建設的に協力できる分野を見出すべく、日本の各機関、メディア、市民社会、そして機会があれば直接、日本国民との対話が継続的に行うことです。そのような分野はたくさんあります。
なぜ今、模擬EUプロジェクトが重要なのですか?
模擬EUは素晴らしい経験を提供できるプロジェクトです。今年、初めて日本で実施できることを特にうれしく思っています。
模擬EUには、2つの目的があります。第一に、EUレベルでの意思決定を学生に経験してもらうことです。EUはしばしば外部から観察され、メディアがその役割上伝えるのは、加盟国間の乖離や意見の相違差異などです。そのため、EUは常に、非常に混乱しており、複雑であるように見えます。実際、27の異なる政治体制、異なる社会をまとめることは、ときに困難なことです。
しかし、模擬EUに参加する学生たちが気付くと思うのですが、、EUの意思決定プロセスは実際には非常に強固なものであり、収れんとコンセンサスを目指しています。まず、根拠に基づいた提案を作成することから始まります。これは、EU機関としての欧州委員会の役割です。しかしその後、EU加盟各国は、技術的レベル、次いで政治的レベルでその法案について討議し、調整と修正を提案します。EUの決定には「特定多数決」が必要で、その結果、収れんとコンセンサスが生まれ、欧州委員会の提案は改善されていきます。
この一連の流れこそ、学生たちが模擬EUで体験することになるのです。学生たちは、27の加盟国の閣僚および欧州委員会を代表する立場でテーブルを囲み、この意思決定プロセスがどのように成果を生み出すかを身をもって体験することになります。これがこのプロジェクトの1つの側面です。私自身も何年も前に学生時代に経験しましたが、とても楽しいものでした。
そして、今回の模擬EUの2つ目の目的ですが、、気候変動政策と関連規制をテーマに選びました。なぜなら、公共政策の羅針盤として、グリーンおよびエネルギーの変革が求められているからです。これは欧州ではもちろんのこと、ここ日本でも同じだと考えます。
気候危機は、公的場面にも私的場面にも、緊急な行動変革を要するほど深刻です。EUはまさにこの分野において、非常に野心的な一連の規制を導入しようとしています。学生たちは、関連規制案に関する議論を通して、対応にはエネルギーや交通システム、さらには社会全体を変える必要性が生じるため、重要で必要なことであるにもかかわらず、それが容易ではないことも理解することができるでしょう。
27の異なる国それぞれが抱える異なる現実というEUを出発点に、それを新たな枠組みでまとまる必要性を経て、それが今度は27の各国の現実を変えていくのです。意思決定、政策設計および気候変動を巡る政策目標という点で、このテーマを取り上げる模擬EUは実に興味深い試みになるでしょう。
学生たちが多くを学ぶと確信していますし、日本で初めてこのプロジェクトを実施できることを大変嬉しく思っています。
模擬EUを日本で実施することにより、どのような結果を期待していますか?
今年から来年にかけて模擬EUに参加する学生たちが、EUでどのように政策が練り上げられるのかを知ることは素晴らしいことです。また、政策設計プロセスや気候変動政策の結果について理解することで、若い人たちは、自分たちが社会を変えられると信じることができると思います。確かに、気候変動との戦いには、多くの投資と政治的資本が必要で、技術的にも非常に複雑ですが、それは可能なのです。気候変動対策を行わないという理由はありません。また、科学的な観点からみれば、対策は非常に迅速に行う必要があります。模擬EUを経験することで、こういったさまざまな教訓を得ることができるでしょう。
気候変動との戦いにおける日本の役割をどのようにお考えでしょうか?また、日・EU間で今後どのような協力ができるとお考えですか?
日本が気候変動対策のリーダーであることは間違いありません。2050年までに気候中立を達成するという目標を掲げています。また、2030年という現在最も重要な地点についても、野心的な目標を掲げています。
われわれは、2030年までに温室効果ガス排出を半減させる必要があります。これは、科学者たちが指摘していることであり、国連の見解でもあります。正直なところ、欧州を除けば、その目標に向けて本当に軌道に乗っている国や地域はないと思います。しかし、日本は依然としてその最前線にいて、東アジアやアジア全体の気候変動対策のリーダーなのです。
日本、EUおよびその他の国・地域は、京都議定書の下、国際社会として協働する重要な責任があります。われわれは、今年11月に開催される第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)をはじめとする各COP関連会議の場で協力するだけでなく、アジア地域で他の国々を支援していく必要があります。EUと日本や他のパートナーは、ベトナムや他の東アジア諸国と連携し、それらの国々がエネルギー転換を加速させる手助けをしています。日本のそのようなリーダーシップは非常に重要であり、高く評価されています。
気候変動との闘いは何世代にもわたるものです。EUや他の政治的機関は、どうやって若者たちに働きかけ、将来への意欲を喚起できますか?
現在、意思決定の立場にある世代は、次の世代のために決断を下す必要があると思います。
今後5年間において、われわれが行動面で失敗すれば、次の世代にとって全く悲惨なことになるでしょう。重要なのは2040年に何をするかではなく、2025年~2030年の間に何をするかなのです。
特に欧州では、私が時々「Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)の奇跡」と呼ぶこともある、学校ストライキや彼女による若者たちの動員がありました。2017年、2018年および2019年と、彼女は気候変動問題に関する人々の意識を喚起するのに本当に大きな影響を与えました。
さらに2019年には、EUで欧州議会選挙がありました。この草の根運動は、この選挙結果にある程度の影響を与え、欧州議会において、緑の党が躍進し、主要政治グループも気候変動やグリーン政策により積極的に関与するようになりました。
その結果、欧州委員会、EU理事会における閣僚たちおよび欧州議会は「欧州グリーン・ディール」を策定し、実施することが可能になりました。ですから、若者の動員は極めて重要であるといえるでしょう。しかし、それ以上に重要なのは、現在責任ある立場にある人々を動かし、まさにリーダーシップを発揮し、今ここで変化を実現することです。