EU代表部、「ああいう、交遊、EU文学」発足イベント開催

駐日欧州連合(EU)代表部は11月23日、文芸交流プロジェクト「ああいう、交遊、EU文学」を開始しました。このプロジェクトは、欧州文学の最新事情や欧州作家の日本語版新刊書を、日本の読書家や文学関係者に紹介する新たな取り組みです。
プロジェクトの発足を記念し、東京・南青山のスパイラルホールで同日開催されたイベント「変容することばたち」には、250人超が来場。各プログラムを通じてEU加盟27カ国で生み出された幅広い文学作品が紹介されたほか、ホワイエでは、日本の出版社から刊行された欧州文学図書の販売、EU各国の食材を生かした特製おにぎりの提供が行われました。
イベント冒頭の挨拶で、駐日 EU 代表部のハイツェ・ジーメルス公使兼副代表は「欧州の明確な特徴の一つは、文化と言語が混在していることです」と指摘。「EUが資金提供する私たちのこのイニシアチブは、現代欧州文学の多言語性を日本に伝えるとともに、日本と欧州の文学シーンの結び付きを強化することを目的としています」と述べました。
翻訳―国境を超えて文学を伝える鍵
「変容することばたち」では、翻訳に焦点が当てられました。翻訳家たちは、普段舞台裏にいることが多いですが、実際は文学トレンドの最前線で活動し、国や文化の壁を越えて物語を届けるために欠かせない存在です。
作家、書評家、YouTuberとして活躍する渡辺祐真氏を司会者に迎え、DJ YELLOWUHURUによるハウス音楽を背景に、ヨーロッパ言語を専門とする日本人翻訳者計19人が登壇。各翻訳家は限られた持ち時間で、日本の読者にとって特に魅力的だと思われるそれぞれの専門言語の最近の作品を紹介し、来場者にとっては現代ヨーロッパ文学の概況を知る機会となりました。
AIは翻訳者の敵か味方か?
テーマトークでは、作家で言語学者の川添愛氏と翻訳家で文芸評論家の鴻巣友季子氏が、京都文学レジデンシー実行委員会代表で作家の吉田恭子氏の司会で、「AI時代の文芸翻訳」という時宜を得たテーマについて議論しました。
「AIは翻訳者の敵か味方か」という吉田氏からの質問に対して、鴻巣氏は「便利ですが、(適切に使うためには)準備に時間と手間がかかります」と指摘しました。一方、川添氏は、言語の進化などに対応するため文芸翻訳には常に人間の要素が必要だと強調。「一つの言葉に対して人によって解釈が変わったり、同じ言葉でも時間が経つと違う意味を持ってきたりする。そういう体験はやはり人間(ならでは)だ」と語りました。
鴻巣氏は、AI翻訳の利点として言葉の壁が低くなったことを挙げました。「これだけ翻訳技術が発達したら、わざわざ英語で書く必要がなくなった」として、母語で文章を書く人が増えていることを説明。しかし、「国際会議では(往々にして)英訳が底本とされるが、オリジナル(言語)の消失が起きかねない」とも指摘し、英語中心主義の傾向に警鐘を鳴らしました。
パフォーマンスのプログラムでは、チェコの詩人で小説家、脚本家のマレク・シンデルカと、スペインの小説家でエッセイスト、詩人のメルセデス・セブリアンによる詩の朗読に合わせ、ドラマー山本達久氏が即興演奏を行い、会場を盛り上げました。
文学関係者や一般読者向けの充実したプログラム
「ああいう、交遊、EU文学」は2025年2月まで続き、文芸分野の国際交流に焦点を当てた、文学関係者および一般読者向けの幅広い活動を展開します。
また、専用ウェブサイト「eubungaku.jp」では、作家へのインタビュー記事、ブックフェア、表彰、レジデンスプログラムなどの包括的な情報を掲載し、各EU加盟国の文学やその背景を紹介します。

Delegation of the European Union to Japan, 2023

Delegation of the European Union to Japan, 2023
写真提供:谷川淳(1~2枚目)、片岡陽太(3枚目)